組織論
■企業の発展段階と組織形態
①現在がX地点であれば、事業Aが立ち上がったばかりなので、単純な専業的組織で充分である。 |
②現在がY地点であれば、A~Cという複数の事業が存在するとともに、将来的な事業Dのための研究開発も必要である。従ってY地点では、X地点よりも複雑な組織となる。 |
③現在がZ地点であれば、既存の組織を一旦白紙に戻し、人的資源を大幅に組み替える事が出来る組織形態が必要である。 |
事業が成長期にある時は、縦型(ヒエラルキー型)組織が、事業が成熟して新たな事業展開などを模索すべき時には、横型(ネットワーク型)組織が適している。
縦型組織とは、経営トップから組織の末端までを一本のラインでつなぐ事ができるピラミッド型の組織である。このラインが指揮・命令の経路となる。
横型組織とは、プロジェクト組織や社内外の連携組織、ネットワーク組織などである。これらの組織は、価値連鎖の考え方を展開したものでなければならない。
代表的な組織形態 | ||
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縦型(階層型・ヒエラルキー型・機械的) | 横型(連携型・ネットワーク型・有機的) | |
基本形 | ライン組織 ライン&スタッフ組織 |
特になし |
形態 | 機能別組織 | プロジェクト組織 |
事業部制組織 | 社内ネットワーク組織 | |
カンパニー制組織 | 社外ネットワーク組織 | |
持ち株会社(分社) | マトリクス組織 |
■各組織形態の特徴
■縦型組織とは
縦型組織とは、原則として経営トップからすべての現場までの指揮・命令系統を一本の線(ライン)で表わす事が出来る組織であり、ライン組織とライン・アンド・スタッフ組織に大別できる。縦型組織の基本形態(考え方)を表わすものであり、様々な運用形態としての組織形態が生まれてくる。
①ライン組織
社長に権限が集中しており、各部門に対して社長が直接、命令を行うものである。
メリット | 社長など経営トップが直接指揮・命令を行うので、迅速な意思決定が可能となる。 |
デメリット | 組織成員が増加したり部門が大きくなったりすると、経営トップに大量の情報が集中し、適正な情報処理が行えず、意思決定が遅れる場合がある。 |
②ライン・アンド・スタッフ組織
ライン組織では、部門が大きくなると社長に大量の情報が集中し経営トップの集権化が限界となる。そこで、ラインの情報処理や職能に助言するスタッフ部門を設けた形態がライン・アンド・スタッフ組織である。多くの中小企業でよく見られる。
メリット | 指揮・命令が混乱することなく、経営トップの負担も軽減できる。 |
デメリット | 組織の規模が大きくなると、スタッフ部門の権限が大きくなりすぎる。 |
■縦型組織の運用形態
①機能別組織
各部門が機能単位に分割されている点で、機能別組織と呼ばれる。
メリット | 機能ごとにグルーピングするので、専門化の原則によって、最適なオペレーションが実施できる。また、ライン組織の考え方なので、社長など経営とトップが直接指揮・命令を行うので迅速な意思決定が可能となる。 |
デメリット | 機能ごとの偏向から意思決定が遅れる場合があり、各部門の業績評価が困難である。また、ライン組織の考え方なので組織成員が増加したり部門が大きくなったりすると経営トップに大量の情報が集中し、適正な情報処理が行えず、意思決定が遅れる場合がある。 |
②職能別組織
職能別(機能別)に部門として集約した組織形態であり、事業や企業規模の点で事業部制を設ける事が出来ない企業で採用される組織。機能別組織と類似しているが、機能別に集約し部門長を置く場合が一般的。
メリット | 職能(機能)単位で多くの権限が委譲出来るので、経営トップの負担が軽減される。職能単位での意思決定が迅速に行える。 |
デメリット | 一つの部門の意思決定が他部門の事情によって制約を受ける事がある。セクショナリズムが発生しやすい。目標設定や実績評価が行いにくい。 |
③事業部制組織
それぞれの事業に対して分権的組織として効率性を追求する為、ライン型の形態を基本として事業部ごとに大幅に権限を委譲する組織
一つの事業部には、製造や営業、管理部門など一つの事業体としての経営機能がすべて含まれる。また、一つの事業部は製造別、顧客別、地域別などの基準で区分される。事業部の責任者は、自身の事業部を利益責任単位(プロフィットセンター)として、その事業に対して全責任を持ち、事業部会計によって業績が評価される。
メリット | 事業環境に合わせて独立的、機能的な組織運営が可能。経営と執行の分離による垂直分業で業績評価が行いやすい。さらに、経営者育成にも繋がる。 |
デメリット | 事業成長が鈍化し、全社的意思決定を行おうとした時にセクショナリズムが発生。全社的かつ迅速な意思決定が阻害される。また、間接部門の重複や規模の経済性が追求しにくく、経営効率にマイナス要因となる場合がある。 |
④その他の縦型組織 社内カンパニー制など。事業部制組織は、既存事業に関する全ての権限を事業部責任者に委譲したプロフィットセンターであった。カンパニー制とは、新規事業の展開やその他全ての権限を委譲したものであり、インベストメントセンターとして位置づけられる。貸借対照表やキャッシュフロー計算書など、財務諸表で業績が評価される。
■横型組織とは
①プロジェクト組織 組織横断的な具体的課題を解決する為に編成される。問題解決型の臨時的組織がプロジェクト組織である。
プロジェクト組織のメンバーは、複数の組織から選任され、それまで属していた部署を離れてプロジェクトに選任し、プロジェクトリーダーの指揮のみに従う場合と、それまで属していた部署の業務を行いつつ兼任する場合とがある。プロジェクトが新規事業の立ち上げの場合には、そのまま事業部門となり新規事業にとどまるケースも多い。
メリット | 柔軟な意思決定が可能となる。目的意識の統一を図り易く、ナレッジの共有によって組織の活性化に繋がる。 |
デメリット | もとの組織からの影響を受けやすく、指揮・命令系統が不明確になり易い。 |
②ネットワーク型組織 複数の企業が互いの独立性を維持しながら、経営資源を補完したり共同事業を立ち上げたりするために、緩やかな関係を結んだ組織である。
メリット | 各組織の自律性維持しながら、戦略的な活動が可能。 |
デメリット | 企業文化や組織文化の面で統一が図りにくい。 |
③マトリクス組織 ライン型の形態を維持しながら、プロジェクト組織の様な課題解決の意思決定の仕組みを加えたワンマンツーボスの組織形態。
メリット | 複数の指揮・命令による課題の同時調整が可能となる。多次元的な指揮・命令により柔軟な意思決定が可能。 |
デメリット | ワンマンツーボスにより指揮・命令が混乱する場合がある。課題解決を離れて内向的となる。 |
■戦略と組織の融合
戦略とそれを実行する為の組織形態は密接な関連を持って意思決定されなければならない。戦略を実行しようと思うと、それを受け止める価値連鎖の力、つまり適正な組織形態が維持されていなければならない。また、適正な組織運営の結果として組織成員のモチベーションが高まり、新たな戦略にチャレンジしようとする組織文化が醸成される。
■戦略が先か 組織が先か
チャンドラーは、「組織形態は戦略に従う」と提唱した。
アンゾフは、「戦略は組織文化に従う」と提唱した。
①組織形態は、戦略に従う 外部環境と内部経営資源の分析、競争優位の分析から、その企業の戦略が導かれる。その戦略を実行する為に、価値連鎖の観点から最適な組織が設計されるべきである。これは、「何をなすべきか?」という戦略立案であり、戦略の分析的アプローチという。
②戦略は組織文化に従う 組織の価値観や文化が形成されていれば、組織成員のスキルやモチベーションが高まる。それが強みとなり、その企業に最適な戦略が設計される。これは、「何が出来るか?」という戦略立案であり、戦略のプロセス的アプローチと呼ばれる。プロセス的アプローチは、戦略立案における今日的なアプローチである。
2つのアプローチは、どちらが正しいかというものではなく、両者が融合してこそ、適正な戦略的経営が出来ると考えるべきである。
■マッキンゼー者の7Sモデル
7Sとは、戦略や組織構造等の7つの要素の頭文字「S」から取った名称である。ソフトのSとハードのSに分類される。
ソフトのS | |
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①価値観 | その組織の共通の価値観。組織に一定の価値観が形成されると、戦略立案やその実行の為の大きな力となる。 |
②行動特性 | 組織や企業全体の価値観に相互に影響を及ぼす行動特性等であり、社風や経営スタイル。企業のカラー(社風)は、組織成員の行動特性を外部から眺めたものである。 |
③人材 | 経営資源としての人的資源そのものである。人的資源の質的向上が実現できれば、良好な社風や価値観の醸成に繋がる。 |
④技能・技術 | 個々の組織成員の能力である。熟練技能や専門技能などは、その企業特有の資源となる。個々の組織成員の技能などを集約できれば、企業にとっては大きな力となる。 |
ハードのS | |
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①戦略 | 外部環境分析、内部資源から引き出されるドメイン、競争環境の分析から引き出せる競争優位の戦略など、企業戦略における全階層の戦略である。これが適正に設計されていなければならない。 |
②組織構造 | 立案された戦略に基づいて、価値連鎖などの観点から内部資源の強みが発揮できる様、適正に設計された組織形態である。 |
③管理システム | 決定された適正な組織の下で、その組織形態で有効に機能するように設計された人事制度や情報システム、オペレーションなど業務の進め方、方法などである。なお、人事制度は、組織成員のモチベーションにも大きく影響する。 |
ソフトのSには、価値観と言った個人の意識が影響しているので、慣性が働きやすい。つまり一度定着してしまうと、強制的または短時間で変更する事は困難である。これに対し、ハードのSは、意識や計画があれば、簡単に変更する事ができる。従って、「まずは、ハードのSをしっかりと設計して運用すれば、良好なソフトのSが実現できる。」という考え方がある。しかし、その様な考え方は正しくない。現実の企業においては、組織変更や人事制度のみを行い、結果として何も変わらなかったという例が多い。従って重要な事は、組織の価値観に受け入れられる戦略をまずは打ち出し、ハードとソフトが融合し、企業行動として整合性が取れているという状態を作り出して、繰り返し変革を行っていくことである。
■コア・コンピタンスとナレッジマネジメント
ハードとソフトを融合させる手段として、ナレッジマネジメントによるコア・コンピタンスの形成とドメインコンセンサスへの展開が挙げられる。
①コアコンピタンス ハメルとプラハラードは、他社に真似できない企業の中核的な能力をコア・コンピタンスと定義し、企業の持続的な競争優位の源泉であると説いた。コア・コンピタンスによって自社独自の価値を顧客に提供する事が出来る。
有効なコア・コンピタンスの条件 | |
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価値 | その企業の競争優位に繋がるものであって、内部資源としての価値がなければならない。 |
希少性 | 原則として、その企業にしか存在しないものでなければならない。特許権などであるが、特許権は期限が到来すると消滅するので強力なコア・コンピタンスとはいえない。 |
組織特殊性 | ア)制度的専有性 イ)パス依存性 ウ)因果関係の不明確さ エ)システムの複雑性 |
ハメルとプラハラードは、コア・コンピタンスを社内に配備するには、資本と同じように人員を再配置しなければならないと提唱している。また、特定の技術や技能における偏狭な視点を乗り越え、他の専門分野を理解する人材が必要であるとしている。コア・コンピタンスを形成し、シフトに追随すべくダイナミックに組み替える手段として、ナレッジ・マネジメントがある。ナレッジマネジメントとは、知識創造の仕組みである。
■ナレッジ・マネジメント
①ケイパビリティ ケイパビリティとは、知を作る能力を意味し、3つで表現できる。
プロダクトレベル | 企業の製品やサービス体系の中核となる製品やサービスの質 |
知識変換レベル | プロダクトレベルのケイパビリティそのものを創造する能力 |
組織資源レベル | 組織に蓄積された知識や行動様式、企業文化や共有化された価値観 |
②自己変革組織 優れたケイパビリティを持つ組織は、自己変革能力を持っている。組織のhん描くが、「変異⇒選択淘汰⇒保持」の3段階で起きるものである。このモデルは、現状を打破する様な変化を内部にうまく取込んだ組織が、競争優位を発揮して生き残るという考え方である。
変異 | その組織に起こるあらゆる変化である。変化を認める事が組織変革にとっては重要である。 |
選択淘汰 | 変異を取捨選択する事である。競争優位となる変異を選択する事が重要である。 |
保持 | 選択淘汰した変異を蓄積し、組織内に普及させる事である。 |
③暗黙知と形式知の循環(SECIモデル) ケイパビリティを発揮し、高度な組織知を継続的に生み出す事ができる企業が、知識創造企業である。組織内で創造される知識は、暗黙知と形式知に分類できる。
暗黙知 | 経験知、共時的な知、アナログ的知、主観的知 |
形式知 | 言語知、時系列的な知、デジタル的知、客観的知 |
ナレッジ・マネジメントにおいては、暗黙知と形式知と相互に補完しあい、それらが循環関係にならなければならない。この様な関係を知識変換という。
知識変換のスパイラル(SECIモデル) | |
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共同化 | 「師匠に学べ」というように、成功体験者と経験を共有するといった暗黙知の共有化である。 |
表出化 | 経験等の暗黙知を、日報などの言語表現(メタファー)により、形式知に変換する事である。 |
連結化 | 組織内の形式知を分類整理して統合する事で、組織全体の新たな形式知を創造する事である。 |
内面化 | 連結化の結果として頭で理解した形式知を、行動による学習を通して身体で覚える事である。 |
これらの4つの局面をエンドレスで循環させる事で、組織内に知識が創造されていくのである。この知識変換の仕組みをSECI(セキ)モデルといい、知識変換スパイラルと呼ぶ。この知識変換スパイラルがナレッジ・マネジメントの中核である。また、このスパイラルが好ましい循環をしている組織は、自己変革組織としても優れたものとなる。さらに、組織の変革モデルや知識変換スパイラルを実践する事で良質なコア・コンピタンスが形成され、それが全員で共有される事によって、ドメイン・コンセンサスに繋がるといえる。
■経営組織の運営(マネジメント理論)
①古典理論 テイラー、ファヨール、フォードらによって展開された理論で、経営管理効率を高める唯一無二の管理原則が存在し、その管理の原則を経営管理手法として体系化しようとした理論である。しかし、企業を取り巻く環境は常に変化するので、唯一無二の原則を追求する事の限界が後に指摘された。この理論は、人間は、経済的要因によって動機付けられるとする「経済人モデル」を前提としている。
②人間関係論 メイラーによって展開された理論で、経済人モデルによる人間機械視に対し、人間の感情が動機付けに影響を与えるとする「感情人モデル」を前提としている。しかし、感情面のみを重視すると、企業の経済合理性が阻害されるという限界が指摘され、行動科学論に発展した。
③バーナードの理論(近代理論) バーナードによって展開された理論で、組織と人との関係や組織と環境との関係を追求した理論である。経営や組織をオープンシステムととらえた理論である。
④行動科学論 人間性と経済合理性のバランスを前提としたものである。人間は自らの意欲によって動機付けられるとする「自己実現人モデル」を前提としている。従業員の意欲をどのように引き出すかを考えなければならないとする理論である。個人と集団に対するものがある。
⑤状況適応論 あるべき経営管理のあり方は、組織成員や環境の状況によって常に変化するというものである。個人、集団、組織に対するものがある。この状況適応論をプロセス理論といい、特定の行動がどのように生じて、どのように維持され、どのように終結するかに視点を置いている。
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